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2PAC/ GREATEST HITS
(Death Row/Interscope/Amaru Records 1998/INTD2-90301)


 正直に告白するならば、私(Kidoh Kashihara)がPacの音楽に目覚めたのは彼が亡くなって暫く経ってからである。それまで私は一貫してアンチ・ギャングスタの姿勢を崩さなかった。私は80年代後半からBillboardを中心に音楽を聴いてきたが、90年代に入ってからのアメリカ音楽シーンの混乱は、Top40の楽曲から華やかさを奪い、またMTVスターたちの居場所を奪った。そして私はコンテンポラリー・サウンドには別れを告げ、70年代、80年代の名盤へと関心を移した。また、私を虜にしていた煌びやかな色合いをアメリカ音楽シーンから奪った、その名の通り酷い演奏とボサボサの頭でギターをかき鳴らすGrunge Rockと(grunge=汚い、お粗末な)、汚い言葉を連発するGangsta Rapを忌み嫌った。
 とこうした中で約10年が経過したとき、私は一枚の素晴らしいアルバムに出会った。Speechの「Spiritual People」がそれである。米国では販売することすら叶わなかったこの作品は、米国から遠く離れた異国の地、日本で熱狂的な支持を受け、EMIN∃M「Marthall Mathers LP」と並んで、2000年度に最も売れたHIP-HOP系アルバムとなった。
 そして私はこれをキッカケに再び現在のアメリカ音楽シーンに関心を抱き、HIP-HOPという斬新な音楽形態に興味を持つようになった。もっと他のアーティストが聴きたい。そう思わされるほどSpeechのアルバムは鮮烈な印象を残した。そこで次に手に取ったのが、この2Pac「Greatest Hits」なのである。
 何故Gangstaを忌み嫌っていた私が、Gangsta Rapの権化とも言うべき2Pac作品を手にとったのか。それは「Spiritual People」収録の"Brother Speech (feat.Medusa)"において、Dr. Dreとも交流がある女性MCのMedusaがライムする次の一節が妙に心に引っかかったことによる。

 To my brothers the ones under lock
 that rocked the gangster boogie exterior
 but got sweet hearts like tupac
 and minds superior

 そして私は「Greatest Hits」の中に、Medusaがライムした通りの「見かけはハードなギャングでも優しい心と優れた思考能力を持った2Pac」を見出した。初めて自ら耳を傾けた2Pacの名曲の数々の虜となったのは言うまでもなく、気付けば彼の作品を全て揃え、毎日のようにそれらを貪り聴いていた。
 2Pacの音楽はHIP-HOPの中では聴き易い部類に入るとは言っても、全米TOP40のようなヒット・ソング達に耳慣れしたものにとっては決してポップとは言えない。また、ある程度の語学力を持ち、ゲットーの悲惨な状況を知ることもなく、ただ自分は真っ当な人間であるとの傲りの境地にある人間にとっては「motherfucker」「bitch」「fuck」と言う言葉が出てきただけで、「NO WAY !!」と叫びたくなるものである。
 だが、私はそうした表層的なものに囚われることなく、彼の存命中には関心すら抱かなかった2Pacの音楽が、ハードな鎧を身にまとってはいても、実はとてつもなく繊細で悲哀に満ちたものであることを見てとった。私的な話になって恐縮だが、私は98年〜2000年にかけて人生のどん底状態にあった。人生初めての挫折を味わい、絶望の日々を送っていた。だが、そうした経験を経て初めて2Pacの音楽を感じ、そして理解することができたのだと思う。
 2Pacの世界は果てしなく深く、無限の広がりを見せる。彼について語ることはできても、語り尽くすことはできないだろう。25年という短い生涯を、疾風のごとく駆け抜けた2Pac。英語を理解できるようになった時、またアメリカにおける人種問題について知識を得、黒人ゲットーの悲惨さを知った時、さらに2Pacの音楽はリスナーの心の中枢に迫り来る。また、リスナー自身が人生の壁にブチ当たり、自殺したいと思うほどの絶望に陥ったとき、2Pacの音楽は様々な救いの手を我々に差し伸べてくれる。
 永遠の25歳となった2Pacに図らずしも25歳にして出会い、そして彼の年齢を追い越してしまった私は今、2Pacと共に人生を歩んでいる。そしてこれからも彼の音楽から離れることはないだろう。そんな2Pacの虜となった私にとって、彼の音楽人生の集大成とも言える本作品は、いわばバイブルである。無人島に一枚のアルバムを持参することが許されるならば、私は迷わずこのアルバムを手に取るであろう。たとえ無人島に電気が来てなかったとしても・・・。
(Kidoh Kashihara)


 日本盤のライナーノーツは泉山真奈美という女性が担当しているが、彼女はスラングに長けた翻訳家であり、決して音楽ライターと呼べるような人物ではない。彼女がたとえ音楽ライターを名乗って仕事をしていたとしてもだ。何故なら彼女には思想も哲学もなく、音楽を語ることなどどだい不可能な話だからである。結局は日本語に翻訳することしか出来ない非創造的な人間に過ぎない。「Soul Sis」などと名前に付記しているが、私には彼女の「Soul」は感じられない。そのことは泉山が行った各曲解説を見ていただけば一目瞭然であろう。
 彼女に正しい各曲解説を呈示すべく、また全てのPacファン、HIP-HOPファン、音楽ファンにPacの真実の姿を伝えるべく、改めて本作に収められた各曲の解説を行いたい。

Keep Ya Head Up -- 2枚組、トータル約120分に及ぶ大作は、"Keep Ya Head Up"で幕を開ける。未婚の母親、暴力に苦しむ女性たちに捧げられたメッセージソングだ。女性へのトリビュートソングとして直ぐ頭に思い浮かぶ名曲の一つにBob Marley "No Woman No Cry"があるが、The Black Angelが歌うフックには、"No Woman No Cry"の中の一節、「everything's gonna be alright」にも匹敵するパワーが宿っている。

 (Keep your head up)
 Eeewww child things are gonna get easier
 (Keep your head up)
 Eeewww child things are gonna get brighter

最近でもRay J(Brandyの弟)やAlicia Keys、そしてGinuwineと言ったR&B畑のアーティストがこぞってこの楽曲への熱い思いを吐露し、その続編を作る意志を語るなど、HIP-HOPの枠を越えて多大な影響を及ぼしているようだ。今やBob Marleyの"No Woman No Cry"以上の知名度を獲得した感もなきにしもあらず。Commonのようにワンマン・プリーチャーを気取った高圧的な態度ではなく、あくまで差別・暴力・貧困に喘ぐ人々の視点からライムするからこそ、2Pacの言葉は世界中の人々の胸を打ち、支持され続けるのであろう。


96年当時、全米で最もお騒がせ者の2PacとSnoop Doggがガップリ四つに組み合った、Gangsta Rapのファンにとっては堪らないナンバー。タイトルもズバリ"全米の二大指名手配者"。
disc2に収録されている"California Love"で競演したDr.Dreのスタイルが、ドスの利いた声と畳みかけるようなライミングとを主としていて、Pacのスタイルに比較的似ているのに対し、Snoopのスタイルは御存知の通り飄々としたもの。それがPacと実に対照的で、見事なコントラストを描いており、数あるSnoopの客演曲の中でも最高の出来と言える。もちろんSnoopファンからも絶大なる支持を受けている。
-- 2 of Amerikaz Most Wanted


Temptations -- "誘惑"というタイトルが示すとおり、テーマは性愛。冒頭の台詞、「Yo Moe B Man, drop that shit'」(Mo B、そろそろやってくれ)に出てくる「Mo B」とはこの曲のプロデューサー、Easy Mo Bのことである。


本作にはこの曲も含めて計4作の未発表曲が収録されている。グレイテスト・ヒッツにこれだけ沢山の未発表曲が収められたのはPacが初めてではないだろうか。従来のファンへのサービスとして、新曲1曲程度が盛り込まれることが当たり前となった御時世とはいえ、全25曲のうち4曲もが未発表という構成は実に珍しい。しかもそれらがアルバムの最後にオマケ程度に付け加えられているのではなく、全編に均等に配分されている点も注目。これは、未発表曲が既に評価の確定したPacの代表的ナンバーとひけをとらないという制作者の自信の現れでもあろう。実際その通りであって、本作に収められた4曲は驚くほどクオリティが高い。 -- God Bless The Dead


Hail Mary -- 冒頭の「follow me!! eat my fresh,fresh and my fresh...」(俺について来い/俺の血肉を食らえ/そして俺と一体化しろ)の一節が象徴するように、ニコロ・マキャベリが説いた殺人啓蒙思想が濃縮されたMakaveli名義の作品。サウンド面でも2Pac時代には見られなかった新たな実験的試みがなされている。それはどこか暗鬱で神秘的であるが、妙に心地よい。90年代後半にR&Bシーンに新風を吹き込んだTimbalandの変態サウンドとどこか似てなくもないように感じるのは私だけであろうか。タイトル"Hail Mary"とは天使祝詞であると同時に、「マリア様頼みの一か八かのやけくそパス」を指すアメフト用語でもある。


"Hail Mary"がMakaveliのテーマだとしたら、「俺対世界」という強烈なタイトルが付けられた本楽曲は2Pacのテーマソングと言えよう。Samplingされているのは、Burt Bacharachのペンによる"Walk On By"。この楽曲はポップス・クラシックとしてDionnne Warwick、Average White Band、Gloria Gaynorなど数多くのアーティストが取り上げヒットさせているが、ここではIssac Hayesのヴァージョンが使用されている。

 If you see me walking down the street
 And I start to cry cach time we meet
 Walk on by Walk on by
 Make believe that you don't see the tears
 Just let me grieve in private 'cause each time I see you
 I break down and cry
 Walk on by Walk on by

 会うたびに涙を見せる俺を見たら
 構わずに歩き去ってくれ
 そんな涙は見せなかったことにして
 一人静かに嘆かせてくれ
 お前を見るたびに俺は堪えきれず泣いてしまうから
 歩き去ってくれ

2Pacがこの"Walk On By"のリリックを意識して、"Me Against The World"を仕上げたことは明らか。「I got notthin 2 lose/It's just me against the world」(俺には失うものなんて何もない/それが俺/世界に逆らって生きるのが俺なんだ)とは、あまりにも悲しいフレーズであるが、そんなPacだからこそ心惹かれることは否めない。
"My Way"、"My World"とタイトルされた、「俺的世界」が歌われた楽曲は無数にあれど、世界と対立するのが俺だと明確に宣言したのは本楽曲くらいに違いない。つまり、Pacのアイデンティティは外界と対立する構造があって初めて規定されるのだ。このことはPacが作品やインタビューを通して常に訴えてきた、「ゲットーの劣悪環境が黒人青年を犯罪に駆り立てる」という主張と完全に符号している。Pacはスキャンダラスな男であった。実際に婦女暴行事件により、実刑判決も受けた。しかしそのような彼を育てたのは、間明もなく社会である。汚いものには蓋をし、体裁を繕うことばかりに執心してきた、アメリカ合衆国という奇妙に歪んだ国家である。
-- Me Against The World


How Do U Want It -- "California Love"と共に両A面シングルとして発売され、Billboard Top 100で見事No.1を勝ち取った、Love&Sexが主題のキャッチーな楽曲。Jodeciとして既に成功していたとは言え、"All My Life" (1998) が年間チャート7位にランクインされて、ますます優れたR&Bシンガーとしての評価が定着してきた感のあるK-Ci & JoJoが参加。2人のソウルフルなヴォーカルを耳にすることが出来る。ヘイリー兄弟は今年春に来日したが、Pacへのトリビュートを忘れていなかった。


3rdアルバム「Me Against The World」(1995)では"Me Against The World"に続いて収録されている、生音志向のナンバー。テーマはずばり「死」で、Stevie Wonderの"That Girl"から引用したハーモニカが悲しく響く。「So many tears/I'm sucidal/so don't stand near me」(俺は多くの涙を流してきた/自殺するほど思い詰めている/だから俺には近寄らない方がいい)という一節がなんとも衝撃的だ。 -- So Many Tears


Unconditional Love -- 母親アフェニ・シャクールから注がれた"無条件の愛"を、自分もストリートの仲間に送りたいという、2Pacの切なる願いが込められたラヴ・バラッド。"Dear Mama"の続編といった見方もできるだろう。Makaveliの2ndアルバムに収められる予定もあったようだが、この「Greatest Hits」アルバムでの公開となった。Pacの未発表曲が公開される度にそのクオリティの高さに驚かされるが、それにしても、本作に収められた4曲は、既発の代表曲にいずれ劣らぬ名曲揃い。恐るべし2Pac。


ゲットーの黒人というだけで、白人警官によって目の敵にされ、いわれなき暴力を振るわれる現状が描かれた社会派作品。1stアルバム「2Pacalypse Now」収録。フックは「they got me trapped/they can't keep the black man down」(俺は罠にかけられた/でも連中に黒人達を押さえつけることはできない)とかなり挑発的であるが、ここにおけるPacは意外にも冷静にブラック・コミュニティを分析している。彼はストリートで暴力沙汰や窃盗にあけくれる黒人達を「rat pack of tyrants」(卑劣な暴君)だと指摘し、黒人はますます状況を悪くしているとライムする。つまり、この曲はCoolioの"Gangsta's Paradise"(1995)とも似たメッセージを持っており、決して単純な暴力賛歌ではない。ただ、そこから脱出して違う人生を生きたいとの希望を抱くPacを、白人警官の横暴が遮るために彼は憤怒し、白人に対する憎しみを露わにするのだ。 -- Trapped


Life Goes On -- 晩年、Pacの片腕としてPacサウンドを影で支えたJohnny "J"のトラックが秀逸の最高に美しいナンバー。ここいいるのは刹那的なギャングスタ人生に罪悪感を抱きながら、そうした生き方しか出来ない自分を半ば諦観したようにライムするPacである。

 How many brothas fell victiom to tha streetz
 Rest in peace young nigga
 There's heaven for a 'G'
 Be a lie
 If I told ya that I never thought of death
 My niggas
 We tha last ones left
 But life goes on...

Gangstaを地で行く大スターとして社会から激しいバッシングを受け、婦女暴行罪で有罪判決まで受けた2Pacは、安定した幸せな生活を望み、獄中でサグ・ライフを捨てる決意までしていたという。しかし、ギャングとの太いコネクションを持つSuge Knightが保釈金を支払い、彼のDeath Row Recordsに移籍したがために、その決意も捨てざるを得ない状況になった。そうした板挟みの状況に立たされた男の嘆きとでも言おうか。それを開き直りという一言で片づけるのは安直すぎるだろう。また、こうした生き様が結局彼の寿命を縮めたと思うと、涙なくしては聴けない。


disk1のラストを飾るのは、これぞディスとも言うべき、激しい憎悪と怒りが渦巻く楽曲。意図的にチープに仕上げられたトラックに乗って、2PacがBiggieとBad Boyに言葉を連射する。2Pacのラップが一本調子で単調だという人もいるが、私はそうは思わない。それどころか、まったく逆ではないだろうか。EMIN∃Mのように様々なキャラを演じることが出来るわけではない。けれどもPacはラップで泣くこともできるし、笑うこともできる。そして、この曲のように抗争とは関係ない第三者にすら恐怖感を抱かせるほどの鬼気迫るライムをぶちまけることもできる。このような感情表現の豊かさは、幼い頃から演技を勉強し、役者としても活躍していたことと深く関係していると想像される。 -- Hit 'Em Up

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