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2007年8月、約十年ぶりにInterscope Records在籍期のオリジナル・アルバムが
BMGジャパンから日本盤で再発された。
中でも、95年に発表された『Me Against The World』は2Pacの代表作との呼び声も高い。
日本盤再発記念として、この代表アルバムの書き下ろし全曲解説を掲載する。
執筆は、当サイトのコラムを担当するcdc氏。

INTRO
 2Pacのキャリアの中でも、特に輝かしい作品であるこのアルバムのイントロは、あの忌まわしきニューヨークでの襲撃事件から始まる。彼はキャリアの中で二度の致命的な襲撃を受けた。このイントロで語られているのは、1994年の最初の襲撃のことである。この襲撃事件は、或る意味で彼のキャリアを悲劇的な運命へと導いていったと言えるだろう。この年は襲撃事件とレイプ事件の疑惑で彼にとって既に悲運なものであったが、その後の東西抗争、つまりビギーやバッドボーイ勢とのビーフの発端となった年でもあった。
 「2Pacのフェイバリットアルバムは?」と訊かれて、この作品を推す人は多い。人気が高く、完成度の高いこのアルバムの裏には、2Pacの悲劇的な運命の始まりがあったことを、我々は改めて知らなければならない。そしてこのアルバムの意味をもう一度考える必要があるだろう。

IF I DIE 2NITE
 周知のように、このアルバムはニューヨークの襲撃事件以前に作られたものであり、後に起こる2Pacの生命を脅かす事件を知った上で作られたわけではないにも拘らず、このアルバムの口火を切るのは、自らの死に言及したこの "If I Die 2Nite" である。これ以前にも同系統のタイトルとして "Bury Me a G" があったけども、彼の死への予感はさらに強まっているような印象を受ける。ラスベガスの銃撃の後、ファンたちが彼の収容された病院の前でこの曲を歌ったという話を聞くと、その後の危険な道程の序章であり、波乱に満ちた人生の終章のような気さえする一曲である。

ME AGAINST THE WORLD
 この曲で世界と対決する姿勢を明確に表したことによって、2Pacのポジションは明らかになった。この姿勢はPublic Enemyのそれと比較できるが、彼が敵を世界としている点に、対象の広範さという違いがあると思われる。彼にとって敵である世界とは、病める社会であり、アメリカという国家であり、貧困、差別、その他諸々の自分を取り巻く環境そのものであったと言うことができるだろう。そして彼がその環境に埋没していくことを否定し対立することを選んだ時、世界は敵となったのである。この曲には、世界が敵であるという孤独感も感じることができるが、それ以上に挑戦し反抗しようとする意志の壮絶さ、力強さがあり、それが聴く者の心を捉えて離さない。また、世界を敵する一方で、ブラックコミュニティー或いはリスナー全てに対しての応援歌的な一曲でもある。
 プロデュースはSoulShock&Karlin。また後のOutlawzであるDramacydalも初参加している。

SO MANY TEARS
 歌詞中に聴こえる「can you feel me?」には、弱りきった自分への神の救いを希求する気持 ちが感じられる。また、「I suffered through the years, and shed so many tears / Lord, I lost so many peers, and shed so many tears」と歌うコーラスからは、ストリートで繰り返される“日常の出来事”にストレスを感じ、今にも押しつぶされそうな心境が見え、またも自らの死を予見している。しかし、心の弱っていく様を逐一描写したようなリリックはやはり見事であり、嘆きをも楽曲へと昇華させてしまう巧さは流石である。
 ここには、2ndアルバム『Strictly 4 My N.I.G.G.A.Z...』には見られなかった影のような哀愁があり、前作『THUG LIFE』を経たことによって得た繊細で感傷的なものが活かされている。

TEMPTATIONS
 “Mr. I get around”の面目躍如的ナンバー。行く場所ごとでグルーピーに囲まれる人気者の特権を余すところ無く語ってくれている。誘惑される自分を容認し弁護する様は、惑わされながらもこれも悪くないといった印象を受ける。サンプリングは2Pac馴染みのZappの "Computer Love"。

YOUNG NIGGAZ
 2Pacお得意のストリート語り。自らのろくでもない環境で過ごした若い頃を振り返りながら、若いニガーにはそれと違った生き方をするように諭している。彼がストリートを歌う時、それは模倣することを求めているのではなく、反面教師となり真っ当な道を行くことを求めているのであって、この曲もその部類の中の一つである。前半のシングル曲と比較しても遜色のない佳曲。

HEAVY IN THE GAME
 富と名声、その他諸々の自らを取り囲む状況の中で生き残ろうとする2Pac。人気ラッパーとして脚光を浴びながらも、どこか不満げであり、それの裏返しとしてゲームにはまって生きていくことを選んだのではないかと思わせる。Richie Richを客演に迎え、シンセが唸りを聴かせる作品。

LORD KNOWS
 神だけが自分の置かれた状況を理解してくれると言わんばかりに「Lord knows」と繰り返す歌詞は痛々しさすら感じる。黒人として、また或いはゲットーに生きる者として、日々感じるストレスを神に告げるかの如く吐露している。コーラスには前作『THUG LIFE』でも関わったNatasha Walkerが参加し、祈るような雰囲気をかもし出してくれている。

DEAR MAMA
 説明不要の2Pacの代表作。このアルバムが彼のキャリアの中で特に意味を持つのは、この曲によるところが少なくないだろう。虚飾のない感謝の言葉と真情が満遍なくちりばめられ、完璧な作品に仕上がっている。
 「even as a crack fiend, mama, You always was a black queen, mama」の一節からは、彼と母親=Afeniが経てきた道程とAfeniに対する敬愛の情が手に取るように理解でき、それは漏れなく聴く者に母親への感謝の気持ちを思い起こさせるだろう。彼の代表作である "Keep Ya Head Up" の系統を継ぐ、一連の女性賛歌の中の最高傑作。

IT AIN'T EASY
 心地良いメロディーに乗せて、酒を飲みながら愚痴るようにストレスに満ちた日々を語ってくれている。「俺対世界」と題されたこのアルバムに、このような自らが感じるストレスを歌ったものが多いのは、恐らく世界と対立して生きる辛さを表しているのではないだろうか。リリックの背後に流れる曲は、その辛さを慰めるようであり、優しげな印象を与える。
 後に発売された『R U Still Down?』でも多く関わっているTony Pizarroがプロデュースしている。

CAN U GET AWAY
 2Pacならではのラブソングであり、虐げられる者の救済者としての姿勢と彼の優しさが伝わってくる一曲。これ以前にも2Pacは "Brenda's Got a Baby" のような、重い内容のストーリーを作品にしている。この曲も抑圧的な男の下、女性の辛い状況を描きながらも、リリックのストーリーの重さを優しげな曲が和らげて聴き易いものとなっている。また、「So much pressure in the air / And I can't get away / I'm not happy here」と歌われるコーラス部分は、単にストーリー上の女性の気持ちではなく、2Pac自身の心情であると理解することも出来るだろう。

OLD SCHOOL
 このアルバムの中では、底抜けに明るい雰囲気を醸し出してくれているオールドスクールに対するリスペクト全開の曲。2Pacが古き良き時代を懐かしみながら、楽しげに歌う様は、とても微笑ましく感じられる。
 プロデュースは、先の "Me Against The World" も手がけたSoulShock。他に『R U Still Down?』では "I Wonder If Heaven Ghetto" でも関わっており、相性の良さが窺える。

FUCK THE WORLD
 盟友Shock Gを迎えて、ストレートに世界への怒りを表している。これまでストレスにやられた様な曲が多かったが、一転して反撃を仕掛けるかのような勢いでラップしている。
 世の中から受ける偏見や不当な扱いに真っ向から対立する様は、まさに「俺対世界」的姿勢であり、その力強さは圧巻ものである。

DEATH AROUND THE CORNER
 多くの2Pacの名曲を手がけたことで知られるJohnny Jプロデュースの作品。母と子の会話から入り、銃と薬物と死によって狂った日々を送る父親の在り様を語っている。これもまた家庭を顧みない男への反面教師的なメッセージを含んでいるように思われる。

OUTLAW
 2Pacの左腕にも「Outlaw」とある様に、世界に抗う者としての生き方をDramacydalを従えて語ってこの作品は締めくくられる。
 2Pacはこの作品までは、ThugやOutlawというスタイルを地で行くことを自ら選んだように見える。だが、それ以降、即ちDeath Row入り後は、ThugやOutlawというスタイルを他者やレーベルのイメージに合わせて作っていったように思われる。そういう意味でこの作品は、虚飾のないThugやOutlawというスタイルが聴ける最後の作品ということができるのではないだろうか。つまり2Pacが2Pacであり得た作品としてこの作品があり、それ故に彼のキャリアの中でも輝かしい一枚であると人の眼に映るのではないだろうか。



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