不定期特約寄稿
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【第4章】Amerikka'z nitemare 2Pacという存在
(2006/09/08)

 2Pacとは、或る人にとっては絶対無二の存在である。また或る人にとっては90年代を代表するラッパーである。そしてまた或る人にとっては害甚だしき悪夢である。

 2Pacという存在は多面的であり人の取り様によって、彼への印象も異なる。彼をヒーローと崇める者もいる一方で、ヒールであると罵る者もいる。彼がアメリカの悪夢たる所以は、私が思うに二つある。その一つは自身のリリックのなかにある。彼の1stアルバムである「2Pacalypse Now」収録の"Words of Windom"のなかに「NIGHTMARE thats what I am/America's nightmare/I am what you made me(悪夢、それは俺だ。アメリカの悪夢。俺を作ったのはお前。)」という一節が見える。これはアメリカという貧困という病巣を抱えた、黒人の敵ともいうべき国家において、自分はその被害者であり、その悪夢を体現した人間であることを物語っていると思われる。またその病んだ社会にメスを入れる自分がアメリカにとっての悪夢である、という意味も曲のリリック全体から伺える。次なる理由は彼がトラブルメーカーとして名を馳せ始めたころに起因する。彼の曲中の一節に感化された少年が人を殺し、また彼自身も問題を起こしていくなかで、彼のイメージする「アメリカの悪夢」ではない悪夢像が彼に与えられた。Gangstaを地で行く危険な人物としての悪夢像だ。

 彼はゲットーに生き、そこからのし上がる過程で多くのアメリカの現実と直面し、社会改革の意識を養った。「2Pacalypse Now」やそれ以前の作品には政治的なメッセージが色濃く出ており、その想いの深さを伺わせる。そして彼が打ち出したアメリカにおける自分の存在が「アメリカの悪夢」という言葉に表されていると思われる。彼はアメリカの虚像、国の繁栄の陰で苦しみ喘ぐ人達の声と自身の叫びをラップに込めた。アメリカが生温い夢に浸っているところに悪夢という現実を撃ちこむ為に。その現実とは彼が描き出したゲットーの在り様であり、ストリートの日常であった。そこには犯罪があり、不正があり、混沌があった。彼はそれを広く世間に伝えるためにゲットーで行われている現実をそのまま歌い上げた。彼は自分のスタイルがGangstaであること肯定していない。なぜなら彼は事実をそのまま歌っただけだ、という意識があるからである。だがしかし、それは客観的に見れば他のGangstaラップと異なるところがなく、故に誤解を招いた。またそれを歌うことによるリスナーによる犯罪という副産物をも生んでしまった。

 アメリカは幾度かの「悪夢」をこれまで見てきた。それは60年代に著しく見られた。その中心には公民権運動の指導者、マーティン・ルーサー・キングとマルコムXがあった。彼らは安寧を貪る白人社会に叛旗を翻した公民権運動のなかで現れ、後世に名を知られるようになった。2Pacは彼らに倣うところが多くあった。実際、彼の母であるAfeniは1966年に結成されたブラック・パンサー党の一人であったし、黒人の地位意識向上を目指していた。2Pacが彼ら60年代の人間の影響を受けないことはありえないことだったと言えるだろう。そして60年代が去り、90年代Public Enemyなどがあったものの、久しく黒人のリーダーがいなかったところに2Pacは現れた。彼は或る意味で60年代の模倣をやったといえる。60年代、キング牧師が行ったバスのボイコット運動やわざと法を破って投獄されるという運動はメディアの注目を浴び、問題を白日の下に曝け出した。これは、2Pacがリリックの中でゲットーの在り様をそのまま描き出したことはこれと通じるところがある。彼は現実を知らしめる為にGangstaを歌ったのであって、それに扮したのではなかった。それはまさにキング牧師が法を破ることそのものを目的として行動した訳ではないのと同様であった。しかし結果的に彼の思惑は誤解されることとなった。

 彼はアメリカの悪夢が60年代より久しく遠ざかっていたところに、90年代突如としてそれを持ち込んだ。これは恰も悪夢から覚めて安寧を貪っていたアメリカに再び悪夢を見せ付けるようなものであったと思われる。管見の限りでは、政治的には共和党が1981年から1992年まで政権を握り、それは2Pacが生きた内、11年を占めるものであった。一般的に資本家の味方とされる共和党に対する2Pacの憤りは、『Resurrection』の中でも垣間見ることが出来る。そのような状況の中から現れた2Pscであるから、貧困に喘ぐ弱者の声を代弁するものになることは不可避的なことであった。

 しかし60年代の先達が黒人の或る程度の躍進と進歩を達成したのに比べ、2Pacを一活動家としてみた場合、その功績は著しいものではない。だが、「アメリカの悪夢」を歌うストリートの代弁者としてみた場合はどうであろうか。彼の声は国を超え、人種を超えて響き渡り、超大国アメリカの一実情を露にすることにおいては成功したということが出来るだろう。彼のリリックは、Public Enemyよりもストリートを映し出し、N.W.A.よりも人間に訴えかけることによって、また新たな価値も持つ声となったのではないだろうか。そしてその声は、我々に「アメリカの悪夢」の如き社会の裏側にあるものに眼を向け、意識することの必要性を喚起してくれているのである。

Written by c d c

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